TRION NOTEブログ

2023-11-24
読みもの

PRO CRAFT-vol.3(前編)

PRO CRAFT-vol.3(前編)

私たちのコンセプトである「“道具”として寄り添い続ける」ものづくり。

道具は、毎日繰り返し使うことで愛着が湧き、大前提として丈夫で長く使い続けられるもの。その信念のもと、皆さまに長く愛用いただけるよう、真摯なものづくりを行なっています。

そんな私たちのモノづくりに共感していただいた、各分野のプロフェッショナルとともに始めたのが「長く愛用できる道具」をカタチにするPRO CRAFT(プロクラフト)プロジェクト。プロフェッショナルならではの新たな視点と、トライオンの技術を掛け合わせました。

今回は、前回のvol.2の「Nothing」でご一緒したプロダクトデザイナー秋田道夫さんと、再びの協働によるものづくりです。

なぜ引き続き秋田さんとものづくりを行うのに至ったのか、そのいきさつから新たなプロダクトの開発の裏側など、全3回シリーズでお届けします。

秋田道夫

Nothingの次には何が来る

レザートートバッグ 秋田道夫
前回のコラボから生まれた「Nothing

「行きつけの歯医者さんに、Nothingを持って行ったんですよ。そしたら、とても気に入ってくれて、でも女性が持つにはちょっと大きいかな、縦型があればいいのにって言われたんです」と秋田さん。

この言葉をきっかけに、秋田さんの中で縦型の「Nothing」の構想が形を取り始めたそうです。「前に、ライターの納富さんが縦型が欲しいと言ってたのも頭に残ってたんです。縦型なら性別も選ばないかなと、そう思った」と秋田さんは言います。

歯医者の女医さんは個人的な希望として、ファスナーも欲しい、肩ひもも欲しいというようなことも話されていて、そこで秋田さんは考えました。「もうNothingは最初のひとつということにして、AnythingとかEverythingとかいうセカンド・ブランドを作るのもよいかもしれない」。この辺りの柔軟性が、秋田道夫というデザイナーの真骨頂です。しかも、何でもアリにするのではなく、革の質感や壁が立っている感じといったコンセプトはNothingと同じにして、その上でユーザーのニーズに応えられるようなものが作れないかと考えました。

秋田さんとのものづくりが再開

その話を持ちかけられた私たちは、もろ手を挙げて賛成しました。そして、トライオン側からも秋田さんのスケッチを見て提案が出てきました。それが、「ポッキーの箱のようなサコッシュ」でした。あのサイズ感が、最近増えているスマホを入れてぶら下げるミニポーチの新しい可能性になるのではないかと思ったからです。「あのフタを開けるところが斜めになっているのも好きなんですよ」と開発チームから意見が出ます。

それを聞いた秋田さんは、スーパーやコンビニを回ってポッキーを探します。近所のスーパーやお菓子屋さんでも品切れで、思わぬ苦戦を強いられながらどうにか入手に成功。「まず、ポッキーの箱に紙紐を付けて自分で提げてみたんです」。さすがに、サコッシュにするには少し小さいと思った秋田さんは、20〜30%の増量を考えます。

ポッキーに紙紐をつけてみました

こうして、「Nothing」の次に来るバッグとして、「縦型トート(ショルダーストラップ付き)」と「スマホバッグ」という2つの形の新しいバッグの種が生まれました。今回、デザインのコンセプトは「Nothing」を踏襲するということで、トライオンと秋田さんの間には共通理解があります。なので、まず秋田さんが構造を考えることになりました。

具体的なかたちに

縦型トートに関しては、構造もほぼ「Nothing」と変わりません。ポイントは、サイズとショルダーストラップの付け方、ハンドルの形状などに絞られます。ところが秋田さんは、そういう部分には迷いがありません。特にサイズに関しては、秋田さん言うところの絶対音感ならぬ「絶対造形感」がモノを言います(「絶対造形感」については、秋田道夫著「かたちには理由がある」(ハヤカワ新書)に詳しいので、興味がある方はそちらをご覧ください)。

秋田道夫
秋田さんが作成した縦型トートイメージ

「縦型トートバッグのサイズは、A4が入ればいいかなと思って、A4より若干大きいくらいでスケッチしました。ほんの少し縦に長いイメージです」と秋田さん。ハンドルは「Nothing」を使っていて気がついた点の修正を依頼して、ストラップは内側から伸びる形で縫い付けてもらうようなイメージ。

 「スマホバッグ」は、まずサイズを、ケースを付けた状態で入れてギリギリ入る大きさに、少しだけ余裕を持たせるという感じで決めたそうです。それとトライオンスタッフが気に入っている昔のポッキーの箱のように斜めに開く開口部の構造は、現状のポッキーの箱に合わせた形状にして、ポッキーの箱同様、内グリを付けています。手が内グリの角に当たって痛くないように角を丸くしてあるのですが、この形状は、実際に使ってみないと最適値は求められないかもしれません。あとは、充電用のケーブルくらいは一緒に入った方がいいかなといった感じで、細部を決めていったそうです。

秋田道夫
スマホバッグのイメージ

「ポケットとかは無いし、ケーブルは入るけれど、バッテリーまでは入らないという辺りがNothing的だなと思ってます。必要なものはあるんだけど、過剰ではない。意外に何も付いてないんです」と秋田さん。確かに、ここまでシンプルな革製のミニポーチは珍しいかもしれません。

そうして出来たスケッチをトライオンに送ったところで、次回は、ファーストサンプルの到着以降のお話です。


秋田さんのお知り合いの方の何気ない一言から始まった秋田さん続編のプロジェクト。次回は、実際のサンプル作りの様子をお届けします。

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