TRION NOTEブログ

2020-05-01
読みもの

究極のシンプルをめざせ。DOCUMENT誕生秘話(後編)

究極のシンプルをめざせ。DOCUMENT誕生秘話(後編)

シャープでスタイリッシュ、極限まで無駄を削ぎ落とした機能美が特徴的な「DOCUMENT」。
このシリーズの起源である「トライオンバッグ/Aシリーズ」の生みの親でもある寺田為彦さんに、制作までのきっかけやモノづくりに対する思いなど誕生秘話を伺うシリーズ。
前編では、寺田さんとトライオンの偶然の出会いからモノづくりへ繋っていく道のりを、後編ではそこからどのようにドキュメントシリーズが生まれたのかをお届けします。

>前編はこちら

Aシリーズの誕生

「手に残っているもの」を問われ、当時専務だった現・トライオン代表は「売っていきたいものがあります。新しく立ち上げたTRIONブランドの商品です」と、寺田氏の目前に立ち上げたばかりのオリジナルブランド「TRION」の初期モデルを広げた。

バッグは所詮、モノを持ち運ぶための袋。運ぶという機能を持った「道具」である、というのが寺田氏の持論で、トライバックス時代から一貫して持ち続けている信条だ。そして、時代が求めるファッションも、華美な「装飾」よりも確かな「機能美」へと向かっていた。

寺田氏は、グラブ製造に特化してきたトライオンの縫製技術と、グラブレザーの品質を確かめた上で、ひとつの答えを導いた。

「これからの時代に求められるのは究極のシンプル。トライオンオリジナルのシンプルな基本型を追及すべきだ」

それは一種の賭けでもあった。老舗のバッグ企業が不況下で熾烈な椅子取りゲームを繰り広げる中、新参のブランドがデザインセンスや品質を謳ったところで勝負にならない。しかし、トライオンは異業種参入者ならではの「飛び道具」を持っていた。

ビジネスバッグ
▲現在のDOCUMENTシリーズを手に取る

グラブレザーは手に馴染む「機能」が大前提であるため柔軟性が非常に高く、通常のバッグのデザインで縫製すると、使っているうちに酷く型崩れしてくる。その特性を逆手に取り、寺田氏は、しっとり厚みを感じさせる風合いが、薄マチでシンプルなデザインに活きてくると直感していた。
メジャーリーグで採用される世界基準の耐久性としなやかさも他の革にない魅力だった。中表に施した細やかな縫製はグラブ製造に長けた技術者独自のテクニックで、裏返すと繊細なエッジラインが形作られる。

1998年、オリジナルバッグブランドTRIONから、「道具としてのバッグ」をコンセプトに、繊細な技術でシンプルを極めたレザーバッグ「Aシリーズ」がデビューした。

究極のシンプルなデザインの中に、「機能するギリギリ」の薄マチ、革の良さを活かして作られたトライオンバッグの基本型は、発売から20年を経た今も型紙・製法を変えず、現在「DOCUMENT」シリーズとして根強い人気を誇る。

ビジネスバッグ
▲約20年前のAシリーズ。現在とほとんど見た目は変わらず、当時からすでに完成された形だったことが分かる

これからも変わらない信念

「弱者は、アナーキーであれ」

とは、寺田氏からのアドバイスだ。弱者とは、異業種からの参入を指している。常識的なバッグ企業であれば、市場調査、企画が先にあり、採算を見ながらデザインを引き立てる素材を選ぶ。
革製服飾品の何たるかも知らず、「野球グラブレザーをどんなバッグにデザインするか」と愚直に考え始めたその瞬間に、バッグ業界のセオリーを全く無視したアナーキーな異端児=TRIONは誕生した。

昨今、薄型ノートパソコンやタブレットの普及で、スタイリッシュな薄マチ革製バッグは世に多く出回っている。しかし、TRIONの「DOCUMENT」シリーズはリピーターが絶えない。
寺田氏は言う。単純に見えるがディテールにこだわり、機能美を追求したデザインはいつまでも崩れず、愛され続けると。また、異端は愛され続け、年を重ねることで、トラディショナルな存在になり得るとも。

「100メートル先から歩いてくる人を見て、あの人はTRIONのバッグを持っている、と分かる。それがブランドということだ」

▲トライオン本社前にて

〈編集後記〉

私が初めて寺田さんにお会いしたのは、ある日フラッと「近くに寄ったから」と会社を訪れて頂いた時でした。
ちょうど今回の原稿のために寺田さんの写真を撮れたらなぁと思っていたタイミングだったので、初対面にも関わらず「写真を撮らせてください!」と図々しくお声がけしたのをその場で快く受け入れてくださいました。

その気取らずシンプルで飾らない姿が寺田さんの信念と重なって見え、人の思いは人柄にも現れるものなんだと感じた瞬間でした。

今回の取材を通して、ライフスタイルの変化に応じて流行など刻々と変わる中で、DOCUMENTの信念はこれからも「変わらないもの」として継承していきたいと改めて思います。